ひよどりの坊や、巣立ち前日のお母さんとの会話
「ねぇ、ご飯ちょうだい!ご飯ちょうだい!おなか空いたよぉ、」
「ひよクン、よーく母さんの言うことを聞いてね、
あなたは明日からかあさんと同じ一人前の大人になるの。
ひよクンの身体は母さんよりも大きくなったわ、
もうひとりで空も飛ぶことができるのよ、食べるものは自分で探して生きていくの」
「いやだよ、やだよ~、母さんが好きなんだぁ~~」
「母さんだって父さんだってひよ君大好きよ、大好きだから一日も早く強い大人になってこの空を思う存分飛び回ってほしい、って願って育てたの。
そしてその日がとうとう来たのです。明日、みんな飛んでみましょうね。
絶対出来るって母さんは信じているわ。
だってあなたたちはとうさんと母さんが一番愛している素晴らしい子供たちなんだから」
「わかったよ、母さん、じゃ、もうごはんもらえないのね?」
「そう、かわいそうだけど。これはとうさんと相談して今日から、と決めたことなの。
ここでみんなで暮らすのもきょうで終り・・・明日からは立派な大人になっておいしいものは自分で見つけて生きていってね」
翌日昼ごろはじめて飛びあがって屋根の上に止まったひよクンと弟、広い世界を見渡して感動で声もありません。でもその目つきは昨日までの甘えん坊たちのものではありませんでした。巣立つ日まで父さんと母さんにあふれるばかりの愛情をかけられて育った子どもたちは真っ直ぐな心で大空に羽ばたいていくことでしょう。
電線や向かい側の屋根を行ったりきたりする子供たち、その姿を親鳥たちが心配そうに見守っているのです。
子どもがときどき巣に近づくと追い立てて
「ほらほらがんばって!ここはもうあなたのいるところじゃないのよ」
といわんばかり・・
そして夕方なんと親鳥たちが巣の中を掃除しているのには驚きました。
ほらこの時も中から羽をくわえてそとに捨てたのです。
そして二羽して同じ方向を見ながら感慨に浸る姿が印象的でした。